ワーケーションに寄せられる多様な意見──日本人に合った「柔軟な働き方」とは?

Myoko Workation column

妙高ワーケーションセンター ワーケーションコーディネーターの竹内義晴です。

新型コロナウイルス感染症が広がりを見せる中、政府はワーケーションを推進する方向とのことです。観光回復へ休暇分散策 政府検討、ワーケーション推進(日本経済新聞)によれば……

新型コロナウイルスの影響で落ち込んだ観光需要の回復に向けて会社員らが混雑期を外して休暇を取れる方策を検討する。菅氏は観光地やリゾート地など休暇先で働く「ワーケーション」の普及に意欲を示した。

観光回復へ休暇分散策 政府検討、ワーケーション推進(日本経済新聞)

としています。

ワーケーション(Workation)とは、ワーク(Work)とバケーション(Vacation)を掛け合わせた造語で、「仕事をしながら余暇を楽しむ」など、いままでにない「これからの働き方」だと言われています。

政府の方向性に、肯定的な意見が寄せられている一方で、「なんで今なの?」「そんな働き方、できるの?」といった意見も寄せられているようです。

なぜ、ワーケーションには多様な意見が寄せられるのでしょうか。

そこで、この記事では、ワーケーションに多様な意見が寄せられる理由と、「日本人に合ったワーケーションの形」についてお話します。「なるほど。メディアの情報では”そんなの、できるの?”と思っていたけれど、こういう感じならアリかもしれないな」と思っていただけたらうれしいです。

ソーシャルメディアに寄せられているワーケーションの意見

まず、ソーシャルメディアに寄せられている意見について見ていきます。ソーシャルメディアで「ワーケーション」で検索したところ、次のような意見が寄せられていました。

肯定的なもの

  • 山や海でリモートワークってのはちょっとやってみたいかも
  • ワーケーションっていう働き方が普及したら楽しいだろうな
  • 「休みの日に旅行先で仕事しろ」ではなく、「仕事の日に観光地からリモートワークする」なら、普及すればいいな

否定的なもの

  • せっかく旅行に行くのに、なんで仕事をしなくちゃいけないんだ?
  • どれだけ仕事させるんだよ!
  • 「子どもはアクティビティに参加。親は仕事」って、誰が子どもをみるの?
  • テレワークすらままならないのに、ワーケーションなど進むはずはない
  • そもそも、ワーケーションが出来る人は、ずっとまえからやってるよ
  • 旅費交通費とか、宿泊費とか、どうするの?会社持ち?
  • 勤怠管理とか、どうするの?
  • 外国人はできるかもしれないけれど、日本人には無理
  • そんなことができるのは、ごく一部の職種だけだよね

どちらかといえば、ネガティブな意見のほうが多いようです。

多くの情報では、ワーケーションは「リゾート地で仕事」などのように伝えられています。でも、今までの「仕事は仕事、プライベートはプライベート」という日本人の文化からしたら、「せっかく休暇なのに、なんで仕事をしなくちゃいけないの?」と、多くの方がお感じになるのも、不思議ではないような気がします。

ワーケーションにネガティブな意見が寄せられる理由

なぜ、ワーケーションにはネガティブな意見が多いのか……その理由について考えてみました。

大きく分けると3つあります。

理由1:コロナ禍対策の一環だと捉えられている

1つ目の理由は、ワーケーションが「コロナ禍対策の一環だと捉えられている」点です。

先の日経新聞の記事には、「新型コロナウイルスの影響で落ち込んだ観光需要の回復に向けて」とあります。この情報によると、先の、観光需要の回復に向けて行われたGo To トラベルキャンペーンの延長のような印象を受けます。

そのため、「コロナ禍で大変なのに、なんで地方に人を移動させようとするのか?」「Go To トラベルキャンペーンも問題が多いのに、次はワーケーションか」といった印象を抱きやすいのではないかと思っています。

理由2:多くの人が「観光の延長」だと伝えている

2つ目の理由は、多くの人が「観光の延長」だと伝えている点です。

先の日経新聞の記事には、「観光需要の回復に向けて会社員らが混雑期を外して休暇を取れる方策を検討する」とあります。この情報によれば、「観光需要の回復」とありますから、ワーケーションは「観光目的」であるように見えます。

しかし、多くの日本人にとって、観光は「仕事から離れて、リフレッシュする」のが文化です。そのため、現状の「リゾート地で働く」「休暇をしながら仕事」といった、観光文脈の伝え方では、「ただでさえ平日は仕事で大変なのに、なぜ、休みまで仕事をしろというんだ」といった意見が出るのでしょう。

理由3:働き方をイメージできない

3つ目の理由は、「働き方をイメージできない」点です。「自分ごと化できない」と言ってもいいかもしれません。

たとえば、「景観のいいおしゃれなリゾートで仕事」といった情報を見聞きしたとき、「いいなー」と思う方は多いかもしれません。環境のいいところで仕事ができたら楽しそうですし、気分もよさそうです。

けれども、「自分ごと」としてとらえようとしたとき、どうすればそういった働き方が実現できるのか、想像しにくいのではないでしょうか(経営者やフリーランスの方はできるかもしれませんが、会社にお勤めの方は、特に)。また、このような働き方をするためには、働く時間や仕事を自分の裁量で決められる必要があります。しかし、そのような環境に身を置いている方は、あまり多くありません。

ワーケーションは「以前からあった言葉」

ところで、今回の政府の発表に「ワーケーションって、今回考えたの?」と思った方もいらっしゃるかもしれません。

実は、ワーケーション自体は、2000年代にアメリカで生まれたと見られています。日経BPが運営する「ひとまち結び」というサイトの、リゾートで休暇を楽しみながら仕事をこなすワーケーションに注目(前編)によれば……

基本的には、リゾートなどで、休暇を兼ねてリモートワークを行う労働形態を指す。そうした働き方は、2000年代にアメリカで生まれたと見られている。

リゾートで休暇を楽しみながら仕事をこなすワーケーションに注目(前編)

としています。その働き方は、自分の仕事のペースは自分で決め、夏季休暇なども2~3週間は取れる、いわゆる「エグゼクティブなアメリカ人たちの働き方」です。せっかくなら、休みは長期間取りたい。でも、ときには仕事の対応をしなければならない。そこで、「リゾートなどの別荘で仕事をしよう」というのが、アメリカのワーケーションです。

しかし、日本では、このような働き方をしている人は少なく、どちらかといえば、労働者の休暇取得の少なさが問題になっているほどです。このような「実情の違い」によって、ワーケーションがイメージしづらく、ネガティブに伝わってしまう要因の1つなのかもしれません。

「日本人に合ったワーケーション」とは?

そこで、もし「日本人にあったワーケーション」があるとしたら、このようなものではないか? について、いくつかの具体的なシーンを考えてみました。

ここでは「ビジネスパーソンや企業にとって役立つ視点」で考えてみました。

帰省に合わせたワーケーション

ゴールデンウィーク、お盆、年末年始をはじめ、これをお読みの方の中にも、自分の、あるいは、パートナーの地元に帰省する方も多いと思います。

今までの帰省のスタイルは「会社の休みに合わせる」のが基本でした。そのため、多くの人が決まった期間に移動することになり、行き帰りは渋滞に巻き込まれ、休暇が終わると疲れた体を引きずって会社に行くのが通例でした。

だからといって、これを避けるために長期休暇に有給休暇をつけるのも、心情としては難しいのが実情です。

そこで、もし2~3日、実家でワーケーションすることができたら、混雑を避けて帰省・帰宅することができますし、仕事を休む気兼ねさもなくなります。実家の親御さんも、お子さんもうれしいはずです。

とはいえ、親御さんや子どもたちがいる実家では、仕事がしづらいかもしれません。近くに、「帰省したときに、気軽に仕事ができるワークスペース」があるとよさそうです。

子どもたちの休暇に合わせたワーケーション

学校の春休みのように、「親は仕事だが、子どもは休み」というときがあります。子どもたちが楽しみにしていた休み。せっかくなら、子どもをどこかに連れて行ってあげたい。けれども、会社は休めない……このような経験はありませんか?

このようなとき、もし、ワーケーションすることができたら、自分はホテルで仕事をし、パートナーと子どもは観光へ……といったことができそうです。

いわゆる、休暇ではないため、ビジネスパーソンのストレスが発散できるか……といったら、それほどではないかもしれません。でも、普段の生活では食べられないおいしいものを食べたら気分が変わるかもしれませんし、温泉に入ればリフレッシュできるかもしれません。

少なからず、パートナーや子どもたちは喜びそうです。

人材育成のためのワーケーション

一昔前、社員の親睦のために、どの会社でもよく「社員旅行」が行われていました。

けれども、ただの社員旅行では目的があいまいですし、旅行に行ったからといって、親睦が深まるとも限りません。時には「なんで上司と、行きたくもない旅行にいかなければならないんだ」と思う人もいるのではないでしょうか。

それならば、「研修」や「合宿」など、はっきりとした目的があったほうが、企業としても投資をしやすいでしょうし、社員の参加も促しやすい。それが、会社の会議室ではなく、温泉地などで行われるのなら、ちょっとした「楽しさへの期待」も膨らみそうです。

また、全員参加ではなくても、農業をはじめ、同じ興味・関心を持った人たちでの合宿研修のようなスタイルは、横のつながりやチームワークを強化できる場合もあります。

地方に移住する付箋としてのワーケーション

これまで、地方創生の一環で、多くの自治体では移住を推進してきました。

けれども、移住する側としたら、「仕事はあるか?」「環境になじめるか」など、多くの課題があり、そう簡単にできるものではありませんでした。

しかし、テレワークで仕事ができれば、週に何日か、あるいは、限られた期間、現在の仕事を続けながら「体験移住」的なことからならはじめられそうです。

もし、この延長上に移住があれば、会社は辞めなくても済みますし、企業側も、移住を理由に、大切に育てた人材を失わずに済みます。

地方で複業するためのワーケーション

地方で複業するためのワーケーションも、効果的なのではないかと思っています。

私は、妙高市を拠点に仕事をしながら、東京の企業でも働いています。いわゆる「複業(ふくぎょう)」です。「複業」とは、本業の他にお金のために働く「副業」とは異なり、複数の仕事を行う「パラレルワーク」です。妙高の仕事は週3日、東京の仕事は週2日働いています。普段はリモートワークで、月に1回、東京のオフィスに出社しています。

もし、この働き方の逆ができたら――つまり、地方の企業で、都市部のビジネスパーソンが複業できたら――「仕事で」定期的に地方に訪れる機会ができます。もちろん、このような形を実現するためには、ていねいな仕組みづくりが必要です。けれども、もし、このような仕組みができたら、人材不足に悩む地方の企業にとっても、都市部で働きながら地方に関心のある人にとってもいいのではないかと考えています。

ワーケーションは「観光需要の回復」ではなく「働く人たちのため」にある

ここまで、ワーケーションに多様な意見が寄せられる理由と、「日本人に合ったワーケーションの形」についてお話しました。

ワーケーションという耳慣れない言葉を見聞きしたとき、違和感を覚えるのも当然です。また「観光需要の回復」と聞いて、「なんで今なの?」「そんな働き方、本当にできるの?」と思われるのも、自然なことだと思います。

一方、ワーケーションが「柔軟な働き方ができるようにするもの」「人材育成に役立つもの」のような、みなさんや企業に役立つものだとしたら……私たちが実現したいのは、こちらです。「観光」というよりは、「働く人たちのため」にあると考えています。

そういう意味では、日本におけるワーケーションは、自分なりの、あるいは会社、チームとしての「これからの働き方の可能性」を探っていく機会なのではないかと思います。どのような環境であれば「個人を犠牲にせずに働けるのか?」「それぞれの環境に合った働き方ができるのか」「チーム力をあげられるのか」「なおかつ、生産性を高められるのか」といった具合に。

こういった環境を整えるためには、まだ時間がかかるかもしれません。いろんな議論が必要なのかもしれません。それでも私たちは「妙高でワーケーションしたら、今までより無理しなくてもよさそうだな」「柔軟な働き方ができそうだな」「子どもたちの笑顔が増えそうだな」「地方との関わりができそうだな」「チームのコミュニケーションがよくなりそうだな」と思っていただけるような環境づくりを、これからも続けていきたいと思っています。